数学月間の会SGKのURLは,https://sgk2005.org/
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私たちが学校で習った「水素イオン濃度指数 pH」の定義では,中性はpH=7で,pHは,(酸性)0~14(アルカリ性)までの数値でした.ときおり,強酸性でpHの-の数値や,強アルカリ性でpHが14を超える数値があるのはどう理解すればよいのでしょうか.わからないことばかりですので,以下で,pHの定義から復習を始めましょう.
以下のHORIBAのウエブサイトにたいへん分かり易い記述があります:
このウエブサイトの説明を要約すると次のようです:
セーレンセン(1909)のpHの定義 $${pH=-log_{10}[H^{+}]}$$ は,その後の研究で,水素イオン濃度$${[H^{+}]}$$ではなく,水素イオンの活量に関係することがわかりました.その結果,pHの定義は1920年に次のように改められました:
$$ {pH=-log_{10}a_{H^{+ } } }$$ , $${a_{H^{+ } }=f\times[H^{+}]}$$
これによると14を超えるpHも可能なようです.
■まず,私たちの学校教科書でのpHの定義では;
水溶液のpHは,水素イオン濃度$${ [H^{+}]}$$ の逆数の常用対数として定義されます: $${pH=-log_{10}[H^{+}]}$$
この定義では,何故,逆数なのか考えてしまいます.単純に次のように言った方が良いと思います:pHは溶液中の水素イオン濃度の常用対数をとり,その符号を変えたものである.広範囲の濃度を対象にするので,水素イオン濃度の桁を指標にしたいので,常用対数をとり,符号を正にするためーをつけただけだ.
25℃の純粋の水には,$${1×10^{-7 } }$$mol/L[mol濃度という濃度の単位]の水素イオン$${[H^{+}]}$$(正確には,$${[H_{3}O^{+}]}$$の型)が含まれています.1Lに含まれる水分子のmol数を計算すると55.6molですから,含まれる$${[H^{+}]}$$イオンのmol数$${1×10^{-7 } }$$は,これに比べて非常に小さい.従って,ほとんどの水分子は電離していません.この数値は,「純粋な水」の電気伝導度を精密に測定することにより知ることができます.
多くの教科書には以下のような記述があります:---------------------
$${H_{2}O \rightleftharpoons H^{+}+OH^{- } }$$ の電離平衡定数Kは,水温で決まる定数で;$${\displaystyle \frac{[H^{+}][OH^{-}]}{[H_{2}O]}=K}$$ .
引用終わり------------------
水のイオン積が一定であることは,電離反応速度の質量作用の法則から導かれ,この平衡定数と関連しているようです.しかし,電離度がわずかなために水のmol濃度に変化はないと説明があります.しかし,ここがとても気持ちが悪いのです.溶媒自身であり,同時に溶質でもある水分子のmol濃度とはいったい何なのだ!
ともかく,水分子が電離すれば,$$ H^{+} $$と$$ OH^{-} $$は等量ずつ生じるので,それらのイオン積(温度に依存する)は, $$ [H^{+}][OH^{-}]=1×10^{-14} $$であります.
希薄な水溶液の場合は,純粋な水の場合と同様,このイオン積は同じ一定値に保たれるようです.
従って,水素イオン濃度が減少すれば反比例して水酸基イオン濃度が増加する.それぞれのイオン濃度は1を越えることがないとすれば,pHの最大値は14になります.
pHは,酸・塩基の濃度が 1 mol/L よりも低い水溶液の酸性・アルカリ性の度合いを示すための指標として考案されたものです.濃度が 1 mol/L を超える濃厚な酸や濃厚アルカリ溶液では,pHが負になったり14を超えたりします.その上, $${[H^{+}]}$$ から求めると実態に合わない(塩基の場合も同様)ので,その代わりに水素イオン活量 $${a_{H^{+ } } } $$が導入されました.
希薄水溶液でなければ,イオン間の相互作用が強くなるので,溶液中の水素イオン濃度を,イオン活量$${a}$$で置き換えて定義しなおすことが必要になったのです.溶質成分$${i}$$のイオン活量の定義;
$${a_{i}=e^{\Delta \mu _{i}/RT } }$$
pH緩衝液
緩衝液とは弱酸とその塩の混合液,あるいは,弱塩基とその塩の混合液で作られます.緩衝液は,酸や塩基を多少加えてもそのpHを変化させない性質(=緩衝作用)を示します.
弱酸とその塩の混合液の場合,塩が電離して,水素イオンを発生するので,弱酸の電離を抑える.弱酸の濃度が多少増加しても電離は増えずpHの変動を抑えます.
このよう緩衝効果の例は,例えば,結晶成長に用いるゲル化シリカを,メタケイ酸ナトリウムと酢酸の中和反応で得て(ゲル化にともないpHは多少変化),ゲル中で結晶塩を成長させる反応イオン水溶液を加えるときにもみられます.
コンスタンチン・ノップ,「クバント」«КВАНТ»No8,2020 の記事より
ただし,原文の説明は分かりにくいので,訳者が説明をすこし変えました.
ジョン・ホートン・コンウェイは著名な数学者で,組み合わせゲーム理論だけではなく,面白い数学への多大な貢献をしています.
パズル-------ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
■私はバスに乗っていて,2人の魔法使の会話を聞きました:
A:私には子供が何人かいて,それぞれの年齢は正の整数であり,それらの合計はこのバス番号に等しく,それらの積は私自身の年齢です.
B:面白い! もし,あなたの年齢と子供の数を教えていただければ,私は彼らの年齢を計算することができますか?
A:いいえ,できません.
B:ああ! ついにあなたの年齢がわかりました.
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
問: 私たちの乗っていたバス番号はいくつですか?
■このパズルの背景
パズルの作者であるジョン・コンウェイが,バス内という場面を設定したのは,魔法使いAの年齢aと彼の子供の数cの他に,もう1つの変数が必要だからで,それがバス番号bです.
(a,b,c)の三つ組数は,aは魔法使いAの年齢,bはバス番号,cは魔法使いAの子供の数を表すとします.
bのバス番号は,私たちにはわかりませんが,魔法使いBにはわかっています.
魔法使いAの「いいえ,できません」という意味は,魔法使いBの知的能力に関することではなく,三つ組数(a,b,c )が完全にわかっても,子供の年齢を明確に決めることができないということです.言い換えれば,同じ総和と積を与える[子供の年齢集合]で異なるものが存在することです.そのような年齢の集合をコンウェイ集合と呼びましょう.
訳者注)条件を満たす子供の年齢集合はc組数です.はじめの三つ組数と区別するために,私は[]で表示することにしました.
このパズルがめちゃくちゃ美しいのは,何から始めればよいかわからない.アプローチが非常に難しいからです.もし,魔法使いAの年齢aが分かれば,その約数を調べて,その和のバリエーションをすべて見つけることができる.もし,バス番号bがわかれば,いろいろな方法でそれを総和に分解し,それらの積のバリエーションを求めることができる.もし,子供の数cだけ分かった場合でも,探索量はずっと少なくなる.
候補探索のプログラミングに数時間を費やし,ようやく正しい解に近づく方法を見出した人もいます.
この問題は,完全に定義されておらず,つまり,さまざまな解決策が存在するのです.
■例を示します:
21番のバス(b=21)内の会話で,魔法使いAは96歳(a=96),子供は3人(c=3)だとします.この状態を三つ組数(96, 21, 3)と書きます.
子供たちの年齢は,和が21,積が96で,この場合c=3のため,たまたまですが,[3つ組数]になります.この条件を満たす子供の年齢は,[1,8,12]と[2,3,16]の2つがあり,確かに,魔法使いBが(96,21,3)と完全な数字を知ったとしても,子供たちの具体的な年齢を割り出すことはできません.
魔法使いの会話から,条件を満たす子供の年齢が決まらないのは何故か?
同じbで異なるaを持つ数字のコンウェイ集合は他にないでしょうか?
この問いに答えるために,別の言い方をしましよう.bが小さく,aが異なるコンウェイ集合は他にないのでしょうか?なぜなら,もし見つけることができれば,それに1歳児を加えて,出来上がったコンウェイ集合の数の合計bを21になるようにすればよいからです.
[訳者注]子供の年齢集合に1歳を一人加えるとb(子どもの年齢の総和)は1つ増加しますが,積a(これは魔法使いAの年齢)は変わりません.ただし,cは1つ増加します].実際,このようなコンウェイ集合は簡単に見つかります.例えば,(40,14,3)の場合,[1, 5, 8] や [2, 2, 10] がそうで,これに1歳児を加えると[1,1,5,8]や[1,2,2,10]で(40,15,4)に対応するコンウェイ集合が得られます(この両者で,魔法使いAの年齢は40歳で変わりません).
また,(36,13,3)の場合,コンウェイ集合 [1, 6, 6] と[2, 2, 9]があり,同様の操作で[1,1,6,6]と[1,2,2,10]のコンウェイ集合が得られ,これは(36,14,4)に対応します.この両者では魔法使いAは36歳で変わりません.
この2つの例で,バス番号b=14が同じとき,魔法使いAの年齢が40と36のように異なるものが作れます.
ここから,説明は冗長になり混乱しますから,ここで一息入れましょう.ここから先は,まず,自分でトライアンドエラーしてみた方が理解が深まります.各自試みてください.要するに,この問題は,[子供の年齢の集合]で,総和と積が一致する集合(コンウェイ集合)の中身に異なるものが複数存在し,子供の具体的な年齢が決まらない場合のb(子どもの年齢の総和でバス番号)を聞いているのです.「ああ! ついにあなたの年齢がわかりました.」と言う発言があるので,そのとき,aの数値は定まらなければいけません.
$$ \begin{split} 6 &= 2 + 2+2\ &(a=8) \\ \rhd 7 &= 2 + 2+ 3\ &(a=12) \\ \rhd 8 &= 2 + 2 + 2 + 2\ &(a=16) \\ \rhd 8 &= 2 + 2+ 4\ &(a=16) \\ \rhd 8 &= 2 + 3 + 3\ &(a=18) \\ \rhd 9 &= 2 + 2 + 2 + 3\ &(a=24) \\ 9 &= 2 + 2 + 5\ &(a=20) \\ \rhd 9 &= 2 + 3 + 4\ &(a=24) \\ 9 &= 3 + 3 + 3\ &(a=27) \\ \rhd 10 &= 2 + 2 + 2 + 2 + 2\ &(a=32) \\ \rhd 10 &= 2 + 2 + 2+ 4\ &(a=32) \\ \rhd 10 &= 2 + 2 + 3 + 3\ &(a=36) \\ \rhd 10 &= 2 + 2+ 6\ &(a=24) \\ \rhd 10 &= 2+3 + 5\ &(a=30) \\ \rhd 10 &= 2+4+4\ &(a=32) \\ \rhd 10 &= 3 + 3+ 4\ &(a=36) \\ \rhd 11 &= 2 + 2 + 2 + 2+ 3\ &(a=48) \\ 11 &= 2 + 2 + 2 + 5\ &(a=40) \\ \rhd 11 &= 2 + 2+ 3 + 4\ &(a=48) \\ \rhd 11 &= 2+3 + 3 + 3\ &(a=54) \\ 11 &= 2 + 2 + 7\ &(a=28) \\ \rhd 11 &= 2+3 + 6\ &(a=36) \\ 11 &= 2+4 + 5\ &(a=40) \\ 11 &= 3 + 3 + 5\ &(a=45) \\ \rhd 11 &= 3 + 4 + 4\ &(a=48) \\ 12 &= 2 + 2 + 2 + 2 + 2 + 2\ &(a=64) \\ 12 &= 2+2+2+2+4\ &(a=64) \\ 12 &= 2+2+2+3+3\ &(a=72) \\ \rhd 12 &=2+2+2+6\ &(a=48) \\ 12 &=2+2+3+5\ &(a=60) \\ 12 &= 2+2+4+4\ &(a=64) \\ 12 &=2+3+3+4\ &(a=72) \\ 12 &= 3+3+3+3\ &(a=81) \\ \rhd 12 &=2+2+8\ & (a=32) \\ 12 &=2+3+7\ &(a=42) \\ \rhd 12 &=2+4+6\ &(a=48) \\ 12 &= 2+5+5\ &(a=50) \\ \rhd 12 &= 3+3+6\ &(a=54) \\ 12 &=3+4+5\ &(a=60) \\ 12 &=4+4+4\ &(a=64)\end{split} $$
$$\begin{split}2 &= 2\ &(a=2) \\ 3 &= 3\ &(a=3) \\ \ldots \\ 11 &= 11\ &(a=11) \\ 4 &= 2+2\ & (a=4) \\ \rhd 5 &= 2+3\ &(a=6) \\ \rhd 6 &= 3+3\ &(a=9) \\ \rhd 6 &= 2+4\ &(a=8) \\ \rhd 7 &= 3+4\ &(a=12) \\ \rhd 7 &= 2+5\ &(a=10) \\ \rhd 8 &= 4+4\ &(a=16) \\ 8 &=3+5\ &(a=15) \\ \rhd 8 &= 2+6\ &(a=12) \\ 9 &= 4+5\ &(a=20) \\ \rhd 9 &=3+6\ &(a=18) \\ 9 &= 2+7\ &(a=14) \\ 10 &= 5+5\ &(a=25) \\ \rhd 10 &=4+6\ &(a=24) \\ 10 &=3+7\ &(a=21) \\ \rhd 10 &=2+8\ &(a=16) \\ \rhd 11 &=5+6\ &(a=30) \\ 11 &=4+7\ &(a=28) \\ \rhd 11 &=3+8\ &(a=24) \\ \rhd 11 &=2+9\ &(a=18)\end{split}
$$
$$\begin{split} \rhd 5 &= 2 + 3\ &(a=6) \\ \rhd 6 &= 6\ &(a=6) \\ \\ \rhd 6 &= 2 + 2 + 2 = 2 + 4\ &(a=8) \\ \rhd 8 &= 8\ &(a=8) \\ \\ \rhd 6 &= 3 + 3\ &(a=9) \\ \rhd 9 &= 9\ &(a=9) \\ \\ \rhd 7 &= 2 + 5\ &(a=10) \\ \rhd 10 &= 10\ &(a=10) \\ \\ \rhd 7 &= 2 + 2 + 3 = 3 + 4\ &(a=12) \\ \rhd 8 &= 2 + 6\ &(a=12) \\ \\ \rhd 8 &= 2 + 2 + 2 + 2 = 2 + 2+ 4 = 4 + 4\ &(a=16) \\ \rhd 10 &= 2+8\ &(a=16) \\ \\ \rhd 8 &= 2+3 + 3\ &(a=18) \\ \rhd 9 &= 3 + 6\ &(a=18) \\ \rhd 11 &= 2 + 9\ &(a=18) \\ \\ \rhd 9 &= 2 + 2 + 2+ 3 = 2+3+4\ &(a=24) \\ \rhd 10 &= 2+2 + 6\ &(a=24) \\ \\ \rhd 10 &= 2+3 + 5\ &(a=30) \\ \rhd 11 &= 5 + 6\ &(a=30) \\ \\ \rhd 10 &= 2 + 2 + 2 + 2 + 2 = 2 + 2 + 2+ 4 = 2+4 + 4\ &(a=32) \\ \rhd 12 &= 2+2 + 8\ &(a=32) \\ \\ \rhd 10 &= 2 + 2+ 3 + 3 = 3 + 3 + 4\ &(a=36) \\ \rhd 11 &= 2+3 + 6\ &(a=36) \\ \\ \rhd 11 &= 2 + 2 + 2 + 2 + 3 = 2 + 2+ 3 + 4 = 3 + 4 + 4\ &(a=48) \\ \rhd 12 &= 2 + 2 + 2 + 6 = 2+4 + 6\ &(a=48) \\ \\ \rhd 11 &= 2 + 3 + 3 + 3\ &(a=54) \\ \rhd 12 &= 3+3 + 6\ &(a=54)\end{split}
$$
$$ \begin{split} \rhd 11 &= 3+4 + 4\ &(a=48) \\ \rhd 12 &= 2+2 + 2 + 6\ &(a=48)\end{split} $$
(定義)語wordとは,順序つけられた記号の配列である.
(例)例えば,abcはアルファベット文字を用いた長さ3の語である.001101は,バイナリー語(各ビットには,0あるいは1が入る)で,長さ6ビットである.
(注)ビットbitとは,binaryとdigitを縮めて作った造語である.
(例題)$${a_{n } }$$ を連続して1が続くことのないようなb-ビット語の数とする.$${a_{n } }$$を求めなさい.
(実験)
n=0のとき: 空集合が1つ: $${a_{0}=1}$$
n=1のとき: 0,1 :$${a_{1}=2}$$
n=2のとき: 00,01,10 :$${a_{2}=3}$$
n=3のとき: 000,010,100,001,101 :$${a_{3}=5}$$
n=4のとき: 0000,0100,1000,0010,1010,0001,0101,1001 :$${a_{4}=8}$$
$${a_{n } }$$はフィボナッチ数列,1,2,3,5,8,....…になることが予想される.
(証明)
1.任意のn-ビット語wを考える.語wが0で終わるとすると,末尾の1つ前(n-1)番ビットは,0でも1でも良いので,この場合の1~(n-1)番ビットでできる(n-1)-ビット語の数は,$${a_{n-1 } }$$個である.従って,0で終わり,連続する1を含まないn-ビット語は$${a_{n-1 } }$$個である.
2.語wが1で終わるとすると,(n-1)番ビットは0でなければならない.(n-2)番ビットは何の制約もなく,0でも1でもかまわない.従って,1で終わり,連続して1を含まないn-ビット語は$${a_{n-2 } }$$個ある.
1.,2.の2つのケースは互いに排他的であるので,加算原理により;$${a_{n}=a_{n-1}+a_{n-2 } }$$これは,フィボナッチ数列の定義に他ならない.
(練習問題)n個のコインを投げて,隣り合う2つのコインが連続して表を向くことがない確率を求めなさい.
写真は,今を盛りに咲いている花桃です.葉となる芽の位置を,枝の元から先に向かって調べると,5つごとに重なる位置になることがわかります.左回りの螺旋配置で,5つ目で重なるまでに2回転しますので,葉序比2/5といいます.2も5もフィボナッチ数です.
一般に,植物や樹木の枝につく葉は螺旋配置をしています.1つの枝に沿って枝先に向かって,ある葉から出発しその葉に重なる上の葉までの葉の数を数えて見ましょう.その数は,だいたいフィボナッチ数になることが知られています.螺旋配置になるのは,木の枝が成長しながら,葉が重ならないよう葉が育つと考えると理解できます.同じ位置の上の葉と重なるまで(1周期)の葉の数がフィボナッチ数と言うことです.植物(精密な工業製品ではない)ですので,それほど厳密な話ではなく,だいたいの配置を言っているに過ぎません.重ならないようにするなら,周期が出来ない(∞周期)方が,良いのではないかとも思いますが,周期というのはだいたいのもので,結晶のように完全に周期的というわけではありませんから,目くじらを立てないでください.
シナノキとニレではこの数は2(左右交互);ブナとハシバミでは3;アンズ,桜,カシでは5;梨とポプラでは8;アーモンドと柳では13と言われています.[Hoggatt,1979]
出発点の葉から終着点の葉までの時計回りあるいは反時計回りの回転数は,やはり通常はフィボナッチ数で,例えば,シナノキとニレでは1回転;ブナとハシバミではやはり1回転;アンズ,桜,カシでは2回転;梨とポプラでは3回転;アーモンドと柳では5回転だそうです.
樹木の枝の葉の配置は葉序と呼ばれます.葉が重なるまでの葉の数と,回転数の比は葉序比と呼ばれ,シナノキとニレの葉序比は1/2;ブナとハシバミでは1/3;アンズ,桜,カシでは2/5;梨とポプラでは3/8;アーモンドと柳では5/13です.[Fibonacci and Lucas numbers with applications, Thomas Koshy]
ここまでに観察される数値は,1,1,2,3,5,8,13までのフィボナッチ数です.さらに大きなフィボナッチ数が観測されるかどうかや,漸化式が葉の発芽の機構から必然的に導くことができるのかには言及しません.
■ 電場$$\textrm{E}$$や電流密度$$\textrm{j}$$を極性ベクトルとすると,磁場$$\textrm{H}$$は軸性ベクトルになる.
それは,次のMaxwell方程式が成立しているためです.
$$ \nabla \times \textrm{H}=\displaystyle \frac{1}{c}\displaystyle \frac{ \partial \textrm{E } }{ \partial t}+\displaystyle \frac{4\pi \textrm{j } }{c}$$の右辺は極性ベクトルですから,$$ \nabla \times \textrm{H}$$は極性ベクトルであることになり,$$ \nabla $$が極性ベクトルなので,$$\textrm{H}$$は軸性ベクトルでなければならない.
極性ベクトル$$ \times $$軸性ベクトル=極性ベクトル
極性ベクトル$$ \times $$極性ベクトル=軸性ベクトル
の関係があり,これを用いました.
$$ \nabla \times \textrm{H}$$,(あるいは,$$\textrm{rot H}$$)という演算の結果は,ベクトル$$\textrm{H}$$の回転面に垂直な軸性ベクトル(その方向は,回転を右ネジに見立てて進む方向)を与えます.この例の軸性ベクトルは$$ \nabla $$とHの2つのベクトルの外積で定義されたもので,その物理的実態は$$\textrm{H}$$の回転面の円軌道にそって流れる電流です.回転方向を,角速度などと同様に,外積を借りて定義しただけで,実態は円軌道という物理現象だけです.右手座標系でも,左手座標系でも,外積自体は右手系で定義するのが慣習です.右手座標系で定義された軸性ベクトルを左手座標系で記述すると,軸性ベクトルの向きは反転します.
詳細は:⇒極性ベクトル軸性ベクトルの項をご覧ください.
座標系を反転すると,右手系で見た座標値$$(x_{1}, x_{2}, x_{3})$$が左手系で見た座標値$$(x_{1}'=-x_{1}, x_{2}'=-x_{2}, x_{3}'=-x_{3})$$に変わります.
座標系の反転で,座標成分の符号が変るのが,極性ベクトル(変位,速度,力,運動量など);
座標成分の符号が変わらないものが軸性ベクトル(角速度,角運動量,モーメントなど)と言われます.
軸性ベクトルとは,2つの極性ベクトル間の外積で定義されるものです.
軸性べクトルは,座標系の反転で座標成分の符号が変わらないというのは本当でしょうか?
納得できないので,これを確かめてみましょう.
■ 右手系と左手系基底の定義
2つの正規直交基底$$ \left[ e_{1}, e_{2}, e_{3} \right] $$,および,$$\left[ e_{1}', e_{2}', e_{3}' \right] $$があるとします.
正規直交基底は, $$e_{i} \cdot e_{j}=\delta _{ij}$$, $$e_{i} \times e_{j}=-e_{j} \times e_{i}$$, $$e_{i} \times e_{i}=0$$が成立ちます.
右手系では, $$e_{2} \times e_{3}=e_{1}$$,$$e_{3} \times e_{1}=e_{2}$$,$$e_{1} \times e_{2}=e_{3}$$ が成立します.
空間反転$$e_{1}'=-e_{1},e_{2}'=-e_{2},e_{3}'=-e_{3}$$して得られる基底$$\left[ e_{1}', e_{2}', e_{3}' \right] $$では,
$$(-e_{2}') \times (-e_{3}')=(-e_{1}'),(-e_{3}') \times (-e_{1}')=(-e_{2}'),(-e_{1}') \times (-e_{2}')=(-e_{3}')$$
すなわち,$$e_{3}' \times e_{2}'=e_{1}',e_{1}' \times e_{3}'=e_{2}',e_{2}' \times e_{1}'=e_{3}'$$が得られます.この座標系は左手系になります.
■ 位置ベクトル,運動量ベクトル(ともに極性ベクトル)を,右手系と左手系で標示すると,
位置ベクトル:$$r=x_{1}e_{1}+x_{2}e_{2}+x_{3}e_{3}=x_{1}'e_{1}'+x_{2}'e_{2}'+x_{3}'e_{3}'=-x_{1}e_{1}'-x_{2}e_{2}'-x_{3}e_{3}'$$
運動量ベクトル:$$p=p_{1}e_{1}+p_{2}e_{2}+p_{3}e_{3}=-p_{1}e_{1}'-p_{2}e_{2}'-p_{3}e_{3}'$$
このように,極性ベクトルの座標値は,座標系の反転で符号を変えることがわかる.
■ 角運動量ベクトル(軸性ベクトル)を,右手系と左手系で標示する.
$$L=r \times p=\left( x_{1}e_{1}+x_{2}e_{2}+x_{3}e_{3} \right) \times \left( p_{1}e_{1}+p_{2}e_{2}+p_{3}e_{3} \right) =$$
$$=-x_{2}p_{1}e_{3}+x_{3}p_{1}e_{2}+x_{1}p_{2}e_{3}-x_{3}p_{2}e_{1}-x_{1}p_{3}e_{2}+x_{2}p_{3}e_{1}=$$
$$=\left( x_{2}p_{3}-x_{3}p_{2} \right) e_{1}+\left( x_{3}p_{1}-x_{1}p_{3} \right) e_{2}+\left( x_{1}p_{2}-x_{2}p_{1} \right) e_{3}=$$
$$=-\left( x_{2}p_{3}-x_{3}p_{2} \right) e_{1}'-\left( x_{3}p_{1}-x_{1}p_{3} \right) e_{2}'-\left( x_{1}p_{2}-x_{2}p_{2} \right) e_{3}'$$
最後の式で基底を反転している.左手系での座標値は,右手系の座標値の符号を反転したものになる.
$$e_{2} \times e_{3}=e_{1} \longrightarrow \left( -e_{2}' \right) \times \left( -e_{3}' \right) =\left( -e_{1}' \right) \longrightarrow e_{3}' \times e_{2}'=e_{1}'$$
■(結論)
座標系の反転(右手系基底[$$e_{1}, e_{2}, e_{3}$$]$$ \longleftrightarrow $$左手系基底[$$e_{1}'=-e_{1}, e_{2}'=-e_{2}, e_{3}'=-e_{3}$$]
をしたときに;
(1) 極性ベクトルは,
反転後の基底についての座標値は,反転前の基底に対する座標値の符号を変えたものになるが,基底自体も反転しているので実態は変わらない.
(2) 軸性ベクトルは,
反転後の基底についての座標値は,反転前の基底に対する座標値の符号を変える.軸性ベクトルは外積で定義された向きを持つが,座標系が左手系であっても外積の定義は右手系でなされているので,左手系では向きを変える.
しかし,実態は回転現象でありこの状態が変わるわけではない.
$$e_{1}$$だけ反転(鏡映対称):奇数パリティ⇒$$x_{1}$$だけ符号反転
$$e_{1}, e_{2}$$の2つを反転($$e_{3}$$を軸とする2回対称):偶数パリティ⇒符号の変化なし
$$e_{1}, e_{2}, e_{3}$$の3つを反転(対称心:奇数パリティ)⇒すべての座標値の符号を変える
ロシアがウクライナ東部のハリコフ占領の恐れと煽りたて,軍を進めるバイデン政権と,その米国の情報に追従する日本の大手新聞やテレビ報道を鵜呑みにしてはいけません.かつての湾岸戦争の勃発も米国の情報操作からでした.ロシアの中庭のようなウクライナをNATO軍事同盟に加盟させるのはおかしいし,米軍がウクライナ東部に軍を進めていること自体が,緊張を高める挑発です.ウクライナがNATOに加盟しなければ,ロシアは戦争を始めません.ロシア人同士が利益のない戦争を好むわけがありません.
https://iwj.co.jp/wj/open/archives/501693?fbclid=IwAR2G79BFL4C804PPmKIPhBl6pBh23tps_VRkQGG-V1JHYH8bDrZdvng4wHM
ウクライナ人民共和国は,第1次世界大戦では,ドイツ側でソ連と戦ったのですが,両国間で和平が成立し,その後,ソ連邦の一員となります.
第2次大戦では,ナチス・ドイツは,ソ連に対抗するのにウクライナ・ナショナリズムを利用します.一方,スターリンは大祖国戦争と呼び,ナチス・ドイツとの戦いにウクライナを利用します.都市ハリコフは,赤軍とナチス軍との激戦地になりました.ウクライナ・ナショナリズムは,東西の対立勢力にいつも利用されます.今日,米国がNATO軍事同盟にウクライナを加盟させようと,東部ウクライナで危機を煽り,ゼレンスキーは政権安定のためにナショナリズムを煽ります.ハリコフのあるウクライナ東部に住んでいるのは,ほとんどロシア人で親ロシア派です.ロシア軍との戦争は無意味です.
ここで,私は,ハリコフという都市にある,ソ連時代の物理学研究所の歴史を,シュブニコフの活動を軸に述べようと思います.
ハリコフはキエフとならぶウクライナの都市です.ソ連時代の1928年に,ヨッフェが物理学研究所を開設し,1931年にL.V.シュブニコフが極低温研究所を作りました.シュブニコフ=ド・ハース効果に名前を冠したL.V.シュブニコフです.私は黒-白群(シュブニコフ群)に関心がありますが,これに名を冠しているのは,別人のA.V.シュブニコフです.
L.V.(レフ・ワシリエヴィチ)・シュブニコフは,1901年9月29日,レニングラードで生まれ,ペトログラード大学物理数学学部の数学科に入学.物理学を専門に学びました.その年の学生は彼一人だったので,一学年上の学生,S.E.フリッシュ,V.A.フォク,一学年下の学生,A.V.ティモレヴァ,O.N.トラペズニコヴァ(1925年に彼の妻となる)と一緒に講義を聴きました.
物理学科(1919年に分離)の学生や教師は,ヨットが好きでした.シュブニコフも熱心な一人で,1921年秋,フィンランド湾のヨットに見知らぬ人たちと一緒に行き,気がつくとフィンランドにおりました.そこからドイツに追放され,1922年にようやくペトログラードに戻ることができました.工科大学で勉強を続け1926年に卒業します.
研究室では,I.V.オブライモフといっしょに,ある形状の大きな金属単結晶を成長させる方法を完成させた.1926年,ドイツのライデンのド・ハース研究所で,この分野の専門家が必要になったときに,A.F.ヨッフェの推薦でシュブニコフが派遣されました.
当時のライデンは世界で唯一液体ヘリウムを持っている研究所で,さまざまな専門分野の物理学者がライデンに集まりました.P.エーレンフェストは,ライデン大学で理論物理学の講座を開いており,刺激的なエーレンフェストのセミナーでは,A・アインシュタイン,N・ボーア,W・パウリ,P・ディラックらとも知り合うことができました.
ライデン研究所では,ド・ハースと共同で,低温で不純物濃度の低いビスマス結晶の研究で,磁場中の磁気抵抗の振動(シュブニコフ=ド・ハース効果)を発見しています.この効果が物性物理学に重要な意味を持つようになったのは,ずっと後の50〜60年代のことです.現在では,この効果は、固体の量子電子物性を調べるための主要な手段の一つとなっています.
ライデンのモットーは「測定から知識へ」で,シュブニコフにとって実験技術の良い学校でありました.常駐の研究所員やセミナーや研修のための訪問者との交流によって,彼は科学技術を習得ができました.
ヨッフェは1928年に,ウクライナのハリコフに物理学研究所を設立し,1930年にライデンから戻ったシュブニコフは,ここに低温研究所を作ることになります.1931年には早くも液体水素,1933年には液体ヘリウムを得て,1934年からは,当時世界で4番目の極低温センターの誕生の宣言をします.この成功は、シュブニコフの功績に間違いないが,ライデンの研究所長であるド・ハースと,当時ソ連では入手不可能な材料や器具をハリコフに移したキーソムの協力があって実現したものです.
シュブニコフの研究所では,低温技術は優れた監督者 I.P.コロレフが指揮し,
吹きガラスはE.V.ペトゥシコフが行いました.研究所の最初のスタッフにはYu.V.シュブニコフ,その後,ルデンコ,フェドロワ,ミルチン,ベレシュチャギン,ズルニツィン,アレクセーフスキー,キコイン,シャリュートと続き現在に至っています.ドイツからも,契約を結んだり,ナチスの迫害を逃れてきた物理学者たちが研究室で働いていました.
この研究所の主な活動の1つに,超伝導の研究があります.低温物理学の発展に貢献したL.V.シュブニコフの研究者の多くは,マイスナー効果はマイスナーとは無関係で,シュブニコフが彼とほぼ同時に発見したと考えています.また,クルト・メンデルスゾーンによると,合金の磁気特性の研究では,ハリコフ研究所はライデンやオックスフォードより進んでいたという.シュブニコフらの業績に敬意を表し,Hc1-Hc2磁場区間におけるタイプP超伝導体の状態は,シュブニコフ相と呼ばれています.
L.V.シュブニコフの研究室では,遷移金属塩化物の熱的,磁気的性質の研究に大きな成果を挙げ,これが反強磁性現象の実験的発見につながり,L.D.ランダウの興味を刺激したと考えられます.
L.V.シュブニコフとL.D.ランダウは,仕事だけでなく,親しい友人関係でもありました.どちらの名前もLevなので,太ったレオ,痩せたレオと呼ばれたのは面白い.二人ともハリコフ大学の物理学科で教鞭をとりました.
しかし,1937年8月6日,L.V.シュブニコフがL.D.ランダウと一緒にクリミアで過ごした休暇から戻った日に逮捕され,スターリンによる粛清の犠牲者となりました.いわれのない破壊活動の罪で起訴され,11月10日に銃殺刑になりました.記録は改竄され,死体もわからず,未亡人は彼が1945年死んだと知らされたといいます.
1956年にL.D.ランダウらにより名誉回復が行われました.ランダウが軍の検察官あてに出した書類は次のようです:
「彼の研究論文の多くは画期的な古典であります.彼がソ連のこの分野の創始者の一人であったことを考えると,低温物理学の分野での彼の破壊活動について話すのはまったくばかげています.彼の熱烈な愛国心は,彼がソ連での仕事のためにオランダでの仕事を自発的に辞めたという事実によって強調されています.L.V.シュブニコフの早すぎる死によって国内科学に引き起こされた損害は,いかなる過大評価も間に合わないほどです」
引用:http://www.ilt.kharkov.ua/bvi/info/shubnikov/shubnikov.html
$$
\begin{vmatrix}
1 & -\textrm{cos}\alpha _{1} & -\textrm{cos}\alpha _{3} \\[0mm]
-\textrm{cos}\alpha _{1} & 1 & -\textrm{cos}\alpha _{2} \\[0mm]
-\textrm{cos}\alpha _{3} & -\textrm{cos}\alpha_{2} & 1
\end{vmatrix} =1-\textrm{cos}^{2}\alpha _{1}-\textrm{cos}^{2}\alpha _{2}-\textrm{cos}^{2}\alpha _{3}+2\textrm{cos}\alpha _{1}\textrm{cos}\alpha _{2}\textrm{cos}\alpha _{3} \\
=-4\textrm{cos}\left( \displaystyle \frac{\alpha _{1}+\alpha _{2}+\alpha _{3 } }{2} \right) \textrm{cos}\left( \displaystyle \frac{-\alpha _{1}+\alpha _{2}+\alpha _{3 } }{2} \right) \textrm{cos}\left( \displaystyle \frac{-\alpha _{2}+\alpha _{1}+\alpha _{3 } }{2} \right) \textrm{cos}\left( \displaystyle \frac{-\alpha _{3}+\alpha _{1}+\alpha _{2 } }{2} \right)
$$
$$
=\begin{cases}
>0 & \Longleftrightarrow & \alpha _{1}+\alpha _{2}+\alpha _{3}>\pi \\[0mm]
=0 & \Longleftrightarrow & \alpha _{1}+\alpha _{2}+\alpha _{3}=\pi \\[0mm]
<0 & \Longleftrightarrow & \alpha _{1}+\alpha _{2}+\alpha _{3}<\pi
\end{cases}
$$
立方格子の空間を見る万華鏡は,立方体の単位胞内の対称面を鏡に選び4枚鏡の万華鏡を作ります.
立方体にある対称面には立方体の正方形面に平行なものや,正方形の面と45°方位のものがあります.
上図の万華鏡では,(1)△ABC,△ABO,△ACO,△BCOを鏡映面にした万華鏡,(2)△ACO,△ACD,△AOD,△DCOを鏡映面にした(1)の半分体積の万華鏡,(3)△ABO',△ABO,△AO'O,△BO'Oを鏡映面にした(1)の2倍体積の万華鏡を示しました.それら3つの万華鏡の作製と映像の記事は別項
これらは,3次元ユークリッド空間の「立体万華鏡」の例です.(上の写真は「美しい幾何学」p.47より引用)
ここでは,ユークリッド空間だけでなく,非ユークリッド空間(球面・楕円幾何,双曲幾何)の3角形面を用いた多面体についてまとめて数学の話をします.
正多面体の面のなす角(二面角)の話から始めます.凸正多面体Mとその頂点の1つを中心とする小球がよぎる線は,凸球面正多角形を形成します.
頂点から$${q}$$本の辺が出ているとすると,凸球面多角形の頂角(辺の二面角)の和は$${π(q-2)}$$よりも大きい.
正多面体Mのすべての二面角が$${π/2}$$を超えない(たとえば,コクセター多面体)場合,各頂点から出る辺は3本だけであることがわかります.この最後の性質を持つ多面体を単純多面体と呼びます.4面体や立方体は単純多面体ですが,8面体は単純多面体ではありません.
しかし,この単純な不等式だけでは,凸多面体の二面角の関係を網羅することはできません.最も単純なMが三角錐の場合について考えてみましょう.その面に番号をつけ,$${i}$$ 番目と$${ j}$$ 番目の面のなす角を $${α_{ij} = α_{ji } }$$ とします.ユークリッド三角錐の二面角が次の関係にあることは,線形代数によって簡単に証明できます.
$$
\begin{vmatrix}
1 & -\textrm{cos}\alpha _{12} & -\textrm{cos}\alpha _{13 } &
-\textrm{cos}\alpha _{14 } \\[0mm]
-\textrm{cos}\alpha _{12} & 1 & -\textrm{cos}\alpha _{23} &
-\textrm{cos}\alpha _{24} \\[0mm]
-\textrm{cos}\alpha _{13} & -\textrm{cos}\alpha _{23} & 1 &
-\textrm{cos}\alpha _{34} \\[0mm]
-\textrm{cos}\alpha _{14} & -\textrm{cos}\alpha _{24} &
-\textrm{cos}\alpha _{34} & 1
\end{vmatrix} =0
$$
左辺の行列式は,ピラミッドの面に対する単位法線ベクトルのグラム行列式[ベクトルの内積が成分]で,0に等しいのは,これらのベクトルが線形従属であることによります.
注)二面角を$${α}$$とすると,対応する面の法線ベクトルの内積は,$$\textrm{cos}(π-α)=-\textrm{cos}α$$となります.
試しに,ユークリッド三角形とすると,$${α_{12}=α_{1}, α_{13}=α_{2}, α_{23}=α_{3 } }$$ になり,
$$
\begin{vmatrix}
1 & -\textrm{cos}\alpha_{1} & -\textrm{cos}\alpha_{2} \\[0mm]
-\textrm{cos}\alpha_{1} & 1 & -\textrm{cos}\alpha_{3} \\[0mm]
-\textrm{cos}\alpha_{2} & -\textrm{cos}\alpha_{3} & 1
\end{vmatrix} =0
$$
この簡単な場合からは,$${α_{1}+α_{2}+α_{3}=π}$$ が得られます.
証明(Andreevより)
$$
\begin{vmatrix}
1 & -\textrm{cos}\alpha _{1} & -\textrm{cos}\alpha _{3} \\[0mm]
-\textrm{cos}\alpha _{1} & 1 & -\textrm{cos}\alpha _{2} \\[0mm]
-\textrm{cos}\alpha _{3} & -\textrm{cos}\alpha_{2} & 1
\end{vmatrix} =1-\textrm{cos}^{2}\alpha _{1}-\textrm{cos}^{2}\alpha _{2}-\textrm{cos}^{2}\alpha _{3}+2\textrm{cos}\alpha _{1}\textrm{cos}\alpha _{2}\textrm{cos}\alpha _{3} \\
=-4\textrm{cos}\left( \displaystyle \frac{\alpha _{1}+\alpha _{2}+\alpha _{3 } }{2} \right) \textrm{cos}\left( \displaystyle \frac{-\alpha _{1}+\alpha _{2}+\alpha _{3 } }{2} \right) \textrm{cos}\left( \displaystyle \frac{-\alpha _{2}+\alpha _{1}+\alpha _{3 } }{2} \right) \textrm{cos}\left( \displaystyle \frac{-\alpha _{3}+\alpha _{1}+\alpha _{2 } }{2} \right)
$$
$$
=\begin{cases}
>0 & \Longleftrightarrow & \alpha _{1}+\alpha _{2}+\alpha _{3}>\pi \\[0mm]
=0 & \Longleftrightarrow & \alpha _{1}+\alpha _{2}+\alpha _{3}=\pi \\[0mm]
<0 & \Longleftrightarrow & \alpha _{1}+\alpha _{2}+\alpha _{3}<\pi
\end{cases}
$$
なぜならば,
$${0<\alpha _{1}, \alpha _{2}, \alpha _{3}<\pi /2}$$なので,$${-\pi <-\alpha _{i}+\alpha _{j}+\alpha _{k}<\pi}$$,$${\textrm{cos}\left( \displaystyle \frac{-\alpha _{i}+\alpha _{j}+\alpha _{k } }{2} \right) >0}$$であり,
従って,式の$${ \pm }$$は,$${\textrm{cos}\left( \displaystyle \frac{\alpha _{1}+\alpha _{2}+\alpha _{3 } }{2} \right) }$$の$${ \mp }$$で決まる(複合同順).
始めに示した関係式は,先に導いた不等式と合わせて,二面角$${α_{ij } }$$を持つ三角錐がユークリッド空間に存在するための必要十分条件となります.これを利用すると,二面角が$${π/}$$整数であるユークリッド空間の三角錐をすべて求めることができ,その数は3つです.図7で,マークのない辺の二面角は$${π / 2}$$,マーク|あるいは||のついた辺の二面角は,それぞれ,$${π / 3}$$または$${π / 4}$$です.図7のピラミッドのうち,1つ目のピラミッドを対称面によって切断すると2つ目のピラミッドが得られ,2つ目のピラミッドを対称面で切断すると3つ目のピラミッドが得られます.
3次元ユークリッド空間には,この3つの万華鏡のほかに,ある意味で2次元に還元された万華鏡が4つだけあります.これは、直角プリズム(3角柱)の底面が2次元の万華鏡であるものです.
3次元ユークリッド万華鏡は,結晶学と密接な関係があります.このような万華鏡の中にいくつかの原子を配置し,万華鏡の壁で繰り返し反射させ得られる像をすべて調べると,結晶格子を得ることができます.つまり,図7に示した万華鏡のうち,1番目の万華鏡で,炭素原子Cを図に示した2つの頂点に置くとダイヤモンドの結晶格子が得られ,2番目の万華鏡で,ナトリウムNaと塩素Clの原子を図に示した頂点に置くと,食塩の結晶格子が得られます.
3次元球面上の万華鏡をすべて見つけることも難しくありません.このすべてが,球面三角錐です.この場合,ユークリッド平面から球面に移るとき,三角形の内角の和が$$π$$より大きくなるので,始めに示した式の等号が不等号$$>$$に置き換えられます.
引用:
E. B. Vinberg, published in the "Soros Educational Journal" (1997, No. 2)
«КВАНТ» No6, 2020