(2)ガロアの登場(19世紀前半)
3次方程式,4次方程式には代数的な解の公式があるが,一般の5次以上の方程式には,代数的な解の公式が作れない.代数的に解を書けるのは運のよい場合である.
(注)解自体がないわけではない.一般に,$${n}$$次方程式には$${n}$$個の複素数の解が存在する(ガウスにより証明された).
方程式$${x^4-4=0}$$の場合,有理数体$${Q}$$上までなら$${(x^2-2)(x^2+2)=0}$$,拡大体$${Q(\sqrt{2})}$$の上までなら$${(x-\sqrt{2})(x+\sqrt{2})(x^2+2)=0}$$,拡大体$${Q(\sqrt{2},i)}$$の上まで許すなら$${(x-\sqrt{2})(x+\sqrt{2})(x-\sqrt{2}i)(x+\sqrt{2}i)=0}$$と因数分解できる.つまり,考慮する体の大きさにより,記述できる解の個数が変わる.
方程式の係数の有理数体$${Q}$$からスタートして,ベキ根を加えて体の拡大を繰り返し,すべての解を含む拡大体$${K}$$に到着するなら,拡大体$${K}$$内で代数的な解の公式が存在する.
一般に,有理数体$${Q}$$上の$${n}$$次の多項式方程式(代数方程式)方程式には$${n}$$個の複素数の解が存在する(ガウス)のだが,有限個のベキ根を加えた$${Q}$$の拡大体に虚数$${i}$$を付加して拡大体$${K}$$を作っても複素数体全域のカバーはできので,複素数体に解があると言っても,有限回の代数的操作でその解にたどり着けるとは限らない.
(注)$${Q}$$上の多項式の根になり得る数を代数的といい,$${Q}$$上のいかなる多項式の根にもなり得ない数は超越数という.
根を付加した拡大体において,根の置換群を考え,この置換群の正規部分群の列により拡大体が順次縮小でき単位群$${1}$$に至れば,解の公式が存在するというのがガロア理論の本質にある.正規部分群による縮小(正規部分群を核とする準同型写像)の各段階で定義される剰余群が巡回群であるなら,この正規部分群の列は可解となる.一般的な5次方程式では,解の置換群は位数120の5次の対称群であり,その正規部分群は位数60の交代群である.この交代群は単純群だが,その下に真の正規部分群を含まないので可解ではなく,一般的には代数的解法がない.
例)4次方程式の場合は代数的な解がある:
■結晶群での解釈
これは,結晶群における群の拡大の仕組みを思い起こさせる.
結晶は周期的な構造(デジタル化された構造)を持ち,並進群$${T}$$で記述される構造である.これに,回転対称操作や鏡映対称操作などの結晶点群$${G}$$の対称操作を付加することで,並進群を拡大して結晶空間群$$ {\it \Phi} $$を得ることができる.
逆の表現をすれば,並進群は,結晶空間群の中の正規部分群であるので,並進群を核とする準同型写像により結晶空間群$${\it \Phi}$$は必ず結晶点群$${G}$$に縮小帰着できる.
$${\it \Phi=T\otimes G}$$ $${\it \Phi /T \simeq G}$$
結晶点群$${G}$$の場合,2つの部分群$${G_{1}, G_{2 } }$$(どちらも正規部分群ではない)の半直積で構成される場合があり,準同型写像が成り立たず,その場合はそこから先は結晶点群を縮小することができない.$${G=G_{1}\oslash G_{2 } }$$
注)正規部分群と剰余類
部分群$${H}$$によるラグランジュ展開の任意の左剰余類の積$${g_{i}H\cdot g_{j}H}$$が,ばらけずに丸ごと別の左剰余類$${g_{s}H}$$に対応するならば,左剰余類は群を作る.この条件は$${g_{i}H\cdot g_{j}H=g_{i}g_{j}H}$$となることであり,$${Hg_{j}=g_{j}H}$$を意味する.
これは$${H}$$が$${\it \Phi}$$の正規部分群であることに他ならない.
(1)に戻る https://note.com/sgk2005/n/n68ac87eb04a6